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第13回 高周波アナログ半導体技術セミナー報告
□テーマ: 「カー・エレクトロニクス−SiCデバイスを中心として」
□日 時: 平成20年8月26日(火)14:30〜17:00 
□場 所:京都テルサ(京都市南区新町通九条下ル 京都府民総合交流プラザ内)

 第13回高周波アナログ半導体技術セミナー(企画:高周波アナログ半導体ビジネス研究会)が、平成20年8月26日、京都テルサにおいて開催された。
 今回は、「カー・エレクトロニクス−SiCデバイスを中心にして」をテーマにして、この分野の最先端でご活躍の方々を講師にお招きした。
 参加者は50名を超え、各講演に活発な質疑・討論が行われ、講演後の交流会にも多数参加して頂いた。
 また、約40年に亘りSiC半導体の先導的研究を続けられてきた松波弘之先生(JSTイノベーションプラザ館長・京都大学名誉教授)に、本セミナーの講評と同時にSiCの今後への展開についての示唆を頂いた。
◆基調講演:「パワーデバイスが切り開く新世界ーSiC商業化目前のインパクト」
         泉谷 渉 氏 (株)産業タイムズ社 専務取締役 編集局長
 第1部の「半導体産業の劇的大型再編―ファブレス/ファンドリー時代の到来―」では、豊富な資料を基に、世界的規模でダイナミックに変動する国内外の半導体産業の現状と将来を具体的に展開された。世界最大規模の産業である自動車向け半導体は、将来20兆円規模の大型市場となる、国内のデバイス企業は車載用に本腰を入れる。一方、半導体および関連分野では、世界的な大型事業再編、垂直統合から国際水平分業化へ移行し、ファブレス企業やファンドリー企業の成長など取り巻く環境の変化の中で国内でも半導体メーカーの再編が進む。また電子材料が主役となる時代が到来し半導体製造における重要なプロセスレシピの60〜70%は装置メーカーに移行するなどと予測された。

 第2部の「パワーデバイスという高成長産業〜SiC商業化に各社全力投球〜」では、パワーデバイスは2010年に3兆円を突破すると予測。国内のSiCデバイスの開発において、ロームがトレンチ型MOSFETの試作に成功している。わずか3mm角で100Aを超える大容量のデバイスである。数100AクラスのフルSiCモジュールの開発が可能となり、大電流容量が求められているハイブリッド自動車や産業用モーターへの適用が可能となってきた。三菱電機は低on抵抗(12.9mΩcm2)のSiCMOSFETを開発、新電元もSiCウエハを用いたパワーデバイスの開発も完了し、サンプル出荷も拡大中。日産自動車はロームと共同で新構造のSiCダイオードを開発、デンソーはシリコンのIGBTモジュールをダウンサイズするためにSiCFETパワーモジュールを開発。エコトロン(日新電機の100%子会社)は耐圧3kVのショットキーバリアSiCダイオードを開発し、電子線照射装置などの高電圧を発生する装置に実用化などの紹介があった。
 現在、米国クリー社がSiC基板の世界シェア90%を握っており、新日鉄やブリヂストンなどクリーに継ぐセカンドベンダーの台頭が待ち望まれていると述べられた。
◆講演1.:「SiCパワーデバイスの動向」
        木本 恒暢 氏 京都大学 工学研究科 教授
 SiCパワーデバイスの特徴・優位性、SiC結晶とプロセス技術などの紹介に続いて、応用としてハイブリッド車・情報機器用SW電源・分散電源・インバータ家電・高速鉄道などの電力変換システムに採用されるならば、国内だけで電子力発電所数基分の省エネ効果が期待される。18年前にはSiC基板は存在しなかったが、現在は直径3〜4インチのものが市販されるまでになった。これらのSiC基板を用いて、ショットキーダイオード(電力中央研究所、東芝・産総研)、JBSダイオード(デンソー、CREE)、PiNダイオード、各種MOSFET(CREE、ローム、産総研、松下電器、京都大学)、JFET(産総研など)、IGBT(CREE)、12.7kVSiCGT(関西電力・CREE)などの最先端のSiCデバイスおよび200kVAのSiCインバータ(関西電力・CREE)などが紹介された。これらのデバイスは、将にシリコン(Si)では達成不可能なものである。SiCは高耐圧、低損失、高速のパワーデバイスとして期待できるが、課題もある。SiCエピウエーハの構造欠陥の低減、結晶の転移の高温での動きやデバイスに与える影響、高温下での特に酸化膜の長期信頼性、高温パッケージ、回路設計などの検討が必要であり、産業化に向けてはSiC基板の国内安定供給と低価格化は大きな課題であると述べられた。
◆講演2.:「超低損失SiCデバイスーEV普及に向け膨らむ期待と課題」
         谷本 智 氏 日産自動車(株) 総合研究所 社会・フロンティア研究所 主任研究員
 温暖化を抑制するためには、自動車の分野ではCO2の排出のない電気自動車(EV)へ移行していく必要がある。ハイブリッド車では、このCO2排出の増加を止められない。EV車においては、インバータの果たす役割が非常に大きく、このインバータの高効率化および高温駆動には半導体デバイスとしてSiCデバイスが期待される。SiCデバイスの採用でシリコンデバイスと比較してチップサイズが小さくなり、インバータモジュールの高電流密度化や高温下で冷却が不要になれば重量・コストの低減化などが図れる。
 日産自動車では、独自のヘテロ構造型のTETT(HEterojunction Tunneling Transistor)を開発している。n型SiC上にソース領域はn型多結晶シリコン、ゲート領域には酸化膜(SiO2)を配置したchannelがないhetero構造であり、ゲートがon状態のとき電流が流れる。この構造の製造プロセスは簡単であるが、まだ課題も多い。現在使用しているAl電極の高温下における酸化膜との反応が進行するなど改良すべき点があり、今後、学会の垣根や業界の壁を越えた連携が必要だと述べられた。
◆講演3.「SiC単結晶基板開発の最近の動向」
         大谷 昇 氏 関西学院大学 教授 兼 SiC材料・プロセス研究開発センター センター長
SiC単結晶の製造は昇華法により製造され、既に4インチ径の大型の基板が市販されている。これまで問題とされていたマイクロパイプというミクロンサイズの結晶欠陥は、ほぼないものが市場に出ており(CREE、新日鉄)、基本的には解決した。SiC単結晶の切断、ラップ、ポリッシュなどの新しい結晶加工技術も開発が進められており、基板の高平坦度化、パターン欠陥の低減化も進展している。
 各種のSiC結晶欠陥(貫通らせん転移、基底面転移ネットワーク)の解明や結晶欠陥とデバイスの電気的特性の関連・影響などについては不明な点が多く、今後の研究課題である。
◆講評: 松波 弘之 氏 JSTイノベーションプラザ京都 館長 兼 京都大学 名誉教授)
 泉谷さんの講演では、パワー半導体の現状を理解させて頂いた。迫力のあるお話だった。大谷先生の講演にあったように今やSiC基板は4インチプロダクションステージに入ってきた。SiCデバイスキラー欠陥が何かについても分かりつつある。エピについては今のCMPで良いのかという問題もあるが、進展があると予測している。谷本さんの実験は300-500℃で行われているが、自動車では実際の雰囲気300℃でSiCデバイスが長時間動作しているわけではないというお話は朗報だ。今後、パッケージにも重要視していき、何らかのコンソーシアムなど何らかの動きを作っていく必要があるだろう、という講評があった。

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